はじめに
私の経験上、認定医療法人制度を活用しての持分なし医療法人へ移行は「親族内承継」で活用されるケースがほとんどです。
認定医療法人制度を活用した持分なし医療法人への移行の大きなメリットの1つが「換金性の乏しい出資持分に対する多額の相続税の納税(多額の資金の持ち出し)の回避」であるところ、親族内承継と違ってM&Aの場面では相続前に出資持分が現金化されていることから同制度活用の必要性が乏しいためです。
ただ、M&Aの場面でも認定医療法人制度を活用して持分なし医療法人へ移行した事例がいくつかありますので、今回はその事例と注意点についてご紹介させていただきます。
【事例1】売り手の立場での事例
- 持分あり医療法人の理事長であるA医師は、その医療法人の出資持分を100%保有していました。
- 出資持分の相続税評価額は5億円となっていました。
- 医師である理事長の子は大学病院に勤務しており、将来医療法人を承継するか不明でした。ただし、そのままでは相続人が将来出資持分に対する多額の相続税を負担しなければならない可能性があるため、親族内承継と第三者承継の両方を視野に入れた上で、認定医療法人制度を活用して持分なし医療法人へ移行しました。
- その後、医師である子は医療法人を承継しないことが決まり、M&Aにより第三者が医療法人を承継することとなりました。
※本件における留意点
- 売り手の役員退職金に注意
認定医療法人をM&Aで譲渡する場合、持分なし医療法人であることから出資持分譲渡のスキームを選択することができず、役員退職金の支払いにより譲渡対価を清算することになります。認定による持分なし医療法人への移行後6年間は退職金の額に制限が生じます。つまり、認定の要件の1つとして、「役員報酬や役員手当等が不当に高額とならないような支給基準を定めていること」があるため、特に6年間はこの要件に抵触しないように注意が必要です。
- 買い手医療法人と合併する場合
認定による持分なし医療法人への移行後6年間に合併による被合併法人として消滅した場合、認定が取消となります。
【事例2】買い手の立場での事例
- 病院の勤務医であったBが開業するに際し、新規開業ではなくM&Aにより持分あり医療法人を承継して独立開業することとなりました。
- 買い手医師の子はまだ小中学生でしたが、医学部に入学して将来医師になることを志しており、将来の医療法人の親族内承継を見越して、M&Aによる承継後に認定医療法人制度を活用して持分なし医療法人へ移行しました。
※本件における留意点
- 役員貸付金に注意
譲渡対価やM&Aの仲介手数料を工面するため、買い手が一時的に医療法人から貸付を受けているケースがあります。奨学金等福利厚生目的ではない関係者への貸付金は解消しないと認定を受けることができません。
また、法人内の親族ではない医師に持分あり医療法人を承継するケースでも、後継者が出資持分の譲渡対価を工面するために医療法人から貸付を受けていることがあります。
医療法54条の配当禁止規定への抵触として都道府県から行政指導の対象となる可能性もあるため、注意が必要です。