【持分あり継続?or持分なし移行?】出資持分の承継対策

はじめに

 私が「厚生労働大臣の認定を受けた上での持分なし医療法人への移行」のご提案をした医療法人(親族内承継を検討、持分あり)に対し、他の業者からも出資持分の承継コンサルを提案されているケースは多々あります。他社からも同様に「認定を受けての持分なし医療法人への移行」を提案されているケースもありますが、ほとんどのケースでは「持分ありのまま」のコンサルを勧められています。

 提案を受けた医療法人としても、「認定→持分なし移行」の方法が良いと思うものの、専門家によっていうことが異なるため混乱して意思決定できないでいるケースが多々あります。

 「認定→持分なし移行」を進めるに際して真に理解・納得したうえで意思決定する必要がありますが、そのためにはそれぞれのスキームのメリットだけでなくデメリットも理解する必要があります。そのデメリットの説明が抜け落ちたご提案内容になっていることが、医療法人側が混乱する原因になっていると考えられます。

持分あり継続の提案内容とデメリット

 持分なし移行により出資者が出資持分を放棄することがもったいないという理由や、そもそも提案者が認定申請の知見がないことから、下記のような方法による「持分あり継続」の提案を受けているケースが多です。

①出資持分を親族へ暦年贈与

 ・そもそも贈与税が課税される(「認定→持分なし」であれば出資持分に対する課税はない)

 ・相続税の計算上贈与した出資持分が持ち戻しされて相続税の課税対象になるケースがある(例:相続開始前7年以内の贈与財産)。

 ・相続税は相続が起こるごとに課税されるため、二次相続以降の相続税対策が別途必要になる(例:祖父が設立した医療法人を子へ承継、将来は孫への承継を予定)。

 ・出資が分散することにより、出資者間で争いの原因となる可能性がある(例:経営者サイドと非経営者である社員出資者との持分払戻請求権を巡る争い)。

②理事長への退職金支給により出資持分の評価が下がった段階で親族に贈与

 ・退職金の支給により法人税の損金にはなるものの、退職金に対して所得税が課税されるとともに、使い切れずに相続が起こった場合は相続税も課税される。

 ・上記①同様、二次相続以降の相続税対策が別途必要になる。

 ・過度な退職金の支給は医療法違反(医療法54条の配当禁止規定違反)となる可能性がある。

③MS法人に医療法人の出資持分を保有させるホールディングス化

 ・かっこいいスキームのように見えるが、根本的な解決とはなっていない(例:二次相続以降の相続税対策など)。

 ・MS法人が医療法人に出資することは可能であるが社員になることは認められていないため、M&Aなどにより他者へ出資持分を譲渡するか医療法人が解散しない限り出資に対する投下資本の回収ができない。

 ・医療法人の出資持分を取得するMS法人で出資持分取得のための資金調達が必要であるとともに、譲渡対価を受けた元出資者についてその譲渡対価の相続税対策が別途必要になる。

「認定→持分なし移行」のデメリットと対応策

⑴出資者個人のデメリット:医療法人に対する財産権がなくなる

 ・ただし、出資持分を残して相続が開始した場合、承継者は別途相続税の納税資金を準備しなければならないため、出資持分という財産を残しているようで、納税という負債を負わせている結果にならないようにしなければなりません。

 ・また財産権の発動(社員の退社による持分の払戻を受ける)をした場合には、払戻を受けた際に所得税が課税(みなし配当として総合課税の対象)されるとともに、払戻金額に対して相続税もかぜいされるため、二重で課税されほとんど手元にお金が残らないことにもなりかねません。

⑵医療法人のデメリット

①認定の要件を6年間充足する必要がある

 ・6年の間に認定の要件を満たさなくなった場合には法人へのみなし贈与税が遡及課税されますので、十分な事前調査と対策を行い、毎年要所要所でチェックとコントロールをすることが必要です。

 ・自由診療割合が高くそもそも認定の要件を満たすことが難しい場合(例:歯科医院など)などは、認定を受けずに持分なし医療法人へ移行することも検討する必要があります。

②M&A等の際に出資金の譲渡の方法がとれない

 ・なお、役員退職金による清算の方法を選択してM&Aをすることは可能ですので、M&A自体ができなくなるわけではありません。現に持分なし医療法人のM&Aも多く行われています。

 ・ただし、認定の要件を6年間維持し続ける必要がありますので、売り手への役員退職金の支給には注意が必要です。

 

③理事長が医療法人へ賃貸している土地

理事長が医療法人へ賃貸している土地についての小規模宅地等の特例の適用が特定同族会社事業用宅地等(400㎡80%減)から貸付事業用宅地等(200㎡50%減)になるため、出資持分の評価額がそこまで大きくない場合は、出資持分に対する相続税の軽減よりも、理事長が医療法人に賃貸している土地等の税額軽減額を優先したほうが有利な場合があります。

④交際費の全額が損金不算入になる場合がある

・純資産が多額((純資産簿価-当期利益)×60%<1億円)の場合、交際費の全額が損金不算入となる場合があります。

 ・ただし、接待飲食費の額の50%相当額までは法人税の計算上交際費が損金算入されます。また、一定の要件を満たすことにより、1人1万円以下の社外飲食費は全額損金算入されます。

 ・法人税の計算上交際費の損金算入が制限されるだけで、交際費の支出そのものが否定されるわけではありません。

 ・医療法人の年間の交際費の支出額は平均約100万円超といわれています。

⑤中退共への加入が制限される場合がある

 ・持分なし医療法人の場合は出資金額での判定は適用されず「常時雇用する従業員数のみ」で加入の可否が判断されます。100人超従業員を雇用しているような病院・介護老人保健施設や大規模クリニック等を運営している医療法人に影響が生じます。

 ・なお、加入要件を満たさなくなった場合、「被共済者の同意」「一定の要件を備えている確定給付企業年金制度、確定拠出年金制度(企業型)または特定退職金共済制度への資産移換の申出」等の要件を満たしていれば、解約手当金相当額の範囲内の金額をその制度を実施する団体である資産管理運用機関もしくは基金または特定退職金共済団体に引渡すことができます。

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