【医療法等改正を受けて】認定医療法人制度活用の検討の目安

はじめに

先週のコラムでお伝えした通り医療法部分での認定医療法人制度の令和11年末までの延長が可決・成立され、税法部分もおそらく来週に令和8年度与党税制改正大綱が公表され延長されるかどうかの方向性が明らかになります。

また、医療法改正により一部地域で開業抑制となりうる可能性も示唆されています。

今回は改めて、持分あり医療法人の親族内承継の場面で、認定医療法人制度を使うべきかどうかの判断の目安についてお伝えしたいと思います。

※あくまで筆者のこれまでの経験に基づくものであり、場合によっては本稿とは異なる判断基準になりうることもご了承ください。

法人の純資産と純利益における判断基準

承継開業のうち親族内承継で、純資産の大きい持分あり医療法人、または毎年多額の純利益が出て純資産を押し上げている持分あり医療法人を承継する場合は、認定医療法人制度の活用を検討すべきでしょう。私の経験上、純資産2億円以上、もしくは純資産が2億円未満であっても(役員報酬を0とした場合の)純利益が1億円近い医療法人が、認定医療法人制度を活用するケースが多いと思われます。

純資産が大きい場合は、法人の出資持分の相続税評価額も高くなり、将来の相続人や後継者が納税しなければならない相続税も多額になります。純資産が現状は大きくなくても毎期純利益が多額に計上されている場合も将来的に同じことになりうる可能性が高いと考えられます。

認定医療法人制度を使えば、これらの法人の出資持分を承継する際に生じる相続税や贈与税の納税を回避することが可能となります。

診療科ごとの判断基準

認定医療法人制度を使うかどうか判断する際の入り口で分かれ目になるのが、要件の1つである「社会保険診療収入等の金額が全収入金額(本来業務及び附帯業務に係る事業収益の合計額)の8割を超えているかどうか?」(以下、「8割要件」とする。)です。これは申請時だけでなくその後6年間満たし続ける必要があるため、6年間の将来設計を加味して判断する必要があります。

自由診療収入金額が多い診療科で注意すべき点は下記のとおりです。

歯科医院

歯科医院では「自由診療3割以上が理想」と言われるなか、この8割要件を満たすことが難しいことが多いです。現状8割要件を満たしていても、経営戦略上6年間自由診療をセーブすることは得策ではありません。これまで出てきている改正法案や税制改正要望等を見る限り、認定医療法人制度の延長がされても歯科医院の自由診療を保険診療扱いするとの改正はないと思われますので、歯科医院で認定医療法人制度を活用することは難しいケースが多いといえます(ただし、収入の大半が保険診療で認定医療法人制度を活用した歯科医院も中にはあります。)。

代替策として、認定を受けずに持分なし医療法人へ移行し、言わば個人に代わって法人で承継に係る納税を行う、その際に納税額を出来るだけ低く抑えるために持分なし移行時の出資持分の相続税評価額を下げることを行ったりします。この方法により、当面の納税は生じるものの、その後の多額の純利益の計上による納税額の上昇を回避できたり、2次相続以降の出資持分に係る納税が生じなくなる効果があります。

小児科

乳幼児健診やワクチン接種などで自由診療割合が4割程度になる小児科もありますが、認定上はこれらの収入のほとんどが保険診療扱いとなるので、結果的に小児科はこの8割要件を満たすことが多いと考えられます。

産婦人科

現状一般の分娩収入は保険適用はされていませんが、認定上は1分娩50万円まで保険診療扱いとなりますので、結果的に産婦人科もこの8割要件を満たすことが多いと考えられます。

不妊治療

従来は自由診療であった不妊治療ですが、保険適用となったことにより8割要件を満たすようになった医療法人も多いです。

整形外科

自賠責保険や、中には再生医療等の収入があるのが特徴的ですが、私が知る限り整形外科でそれらの収入により8割要件を満たさなくなる医療法人はありませんでした。

新規開業か?承継開業か?

医療法改正での一部地域での医療機関の新規開業抑制、2029年頃からの医学部定員の削減の検討(令和6年5月21日財政制度等審議会)等による後継者不足の懸念により、今後承継開業がより注目を浴びるのではないかと予想しています。歯科では歯学部定員の削減等もあり特に地方での後継者不足による休廃業が増加しているようです。医科でも後継者がいなくて閉院した医療機関のお話を耳にすることがあります。

オーナーとして独立開業する方法としては、新規開業、親族内承継、第三者承継の方法となりますが、今後どのような流れになるのか注意する必要があると考えられます。

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