昨今の物価高と人件費の高騰で、医療機関の経営も非常に厳しい状況に置かれています。 これまで長年続いてきたデフレの時代から急に物価が上昇したことにより、医療法人の相続税対策も発想の転換が必要になる可能性があります。
今回はインフレ下における医療法人の相続税対策について、①持分あり医療法人の出資持分と②理事長が医療法人に賃貸している不動産に絞って考えてみたいと思います。
都心部の持分あり医療法人であれば、インフレがこのまま続くなら認定医療法人制度を利用して持分なしに移行しない方が良い可能性があります。
例えば下記のような事例を検討してみたいと思います。
まず1については、認定医療法人制度を活用して持分なし医療法人へ移行すれば、出資持分1億円が相続税の課税対象から除外されることとなります。
ただし、持分なし医療法人へ移行すると、理事長が医療法人へ賃貸している土地についての相続税の課税価格に算入すべき価額の計算上の減額について、(小規模宅地等の特例の適用要件を満たしていることを前提として)「特定同族会社事業用宅地等(400㎡まで80%評価減)」から「貸付事業用宅地等(200㎡まで50%評価減)」に減額が狭まることとなります。
従って、出資持分の評価と土地の減額とを勘案して認定医療法人制度を活用して持分なし医療法人へ移行すべきか検討する必要があります。つまり、土地減額の縮小が現時点で1億円を超える場合は認定による持分なし医療法人への移行は得策ではないこととなります。また、今後も物価上昇が続くことにより、赤字が継続した結果出資持分の評価額が下がっていき、それとは反対にインフレにより土地の評価額が上がっていくような場合で、出資持分の評価額の圧縮よりも小規模宅地等の特例の適用による土地の減額の縮小が大きくなったときは、認定による持分なし医療法人への移行は得策ではないといえます。
上記の事例では、土地の相続税評価額が(全体で400㎡と仮定した場合に)181,818,182円以下であるかどうかになります。
都心部の医療法人では特に医療機関の競合がひしめき合っているとともに、土地の値段が非常に高額であることから、これらのようなシナリオに合致する可能性があります。
特定同族会社事業用宅地等は他の特例(例:特定居住用宅地等(限度面積330㎡まで減額割合80%))との併用を行う場合の限度面積は全面積併用できる(例:330㎡+400㎡=730㎡)ことに対して、貸付事業用宅地等は併用を行う場合の限度面積は限定されることにも注意が必要です。
ただし、今後インフレが続くかどうかは誰にもわかりません。物価の変動は生産年齢人口に連動するともいわれていますが、現状は逆のことが起こっており、他の要因でインフレが起こっているのか、インフレが一時的なランダムウォークなのか、今後の動向も注視する必要があります。
下記の方法が考えられますが、それぞれ課題はあります。
・都心部ではすでに不動産の取得時の金額よりも時価が高騰しているため、現物出資を行うことにより理事長に多額の譲渡所得税(その他にも不動産取得税・登録免許税等)が課税される。
(参考:国税庁タックスアンサー「No.3117 不動産を法人に現物出資したとき」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3117.htm)。
※法人に現物出資した場合も資産の譲渡になり、所得税の課税対象とされます。この場合の譲渡収入金額は、出資した不動産の時価ではなく、現物出資により取得した株式や出資持分の時価となります。ただし、その価額が出資した不動産の時価の2分の1未満の場合は、出資した不動産の時価が収入金額とみなされます。
・不動産賃料がなくなり、理事長引退後の収入がなくなる可能性がある。
・相続時精算課税制度で贈与された土地は、相続時に小規模宅地等の特例を適用できない。
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