持分あり医療法人の税務顧問や出資者の相続税申告を担当する税理士(または税理士法人)にとっては、認定医療法人制度は「知らない」や「必要ない」では済まされない制度です。
まず第1に、クライアントに対する説明を怠った場合に損害賠償責任を負う恐れがあります。そもそも認定医療法人制度は税法(租税特別措置法)の制度であるところ、認定医療法人制度を活用して持分なし医療法人へ移行していたら数千万円から数億円の納税が軽減されていたにも関わらず、税理士がクライアントへの説明を怠ったことにより納税が発生した場合に、損害賠償請求を受けることが考えられます。
実際、株式会社日税連保険サービス発行の「2023年7月1日~2024年6月30日税理士職業賠償責任保険事故事例(2024年10月発行)」によると、 農地の納税猶予制度や事業承継税制の特例の適用失念を事故原因とした税理士職業賠償責任保険の保険金支払いの記載があります。
((株式会社日税連保険サービス発行「2023年7月1日~2024年6月30日税理士職業賠償責任保険事故事例(2024年10月発行)」5ページ)
また、第2のリスクとして顧問契約解約のリスクが挙げられます。認定医療法人制度の活用が有用なクライアントに説明をしていない場合や、クライアントからの質問に適切に回答することが出来ない場合に、クライアントの信頼を失うことにもなりかねません。
特に承継の場面では、後継者が自身の法人の取引関係の棚卸を行うことも多くあります。実際に、後継者から認定医療法人制度の活用を相談された顧問税理士が頑なに制度活用を反対したものの、結局その後継者経由で他の専門家に認定医療法人制度活用支援を依頼して認定を受け持分なし医療法人へ移行したケースでは、その顧問税理士が後継者の信頼を失ってしまい、顧問税理士の変更に至ってしまいました。
何よりも制度内容の説明不足で一番の不利益を被るのは納税者であるクライアントです。制度の活用が必要ないかどうかを顧問税理士や相続税申告代理税理士が判断して取捨選択するのではなく、クライアントに適切にメリット・デメリットを説明して、クライアントの正しい理解の基に判断を仰ぐことが何よりも重要です。
ますます複雑化細分化する税制の基であらゆる税制を一元的に1人の税理士(1税理士法人)が請け負うことにはどうしても限界があるため、協業体制を構築しておくことも重要であると考えられます。
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