医療法人のM&Aで、譲渡金額を「純資産時価+修正後純利益の1~2年分」を目安として決める場合、理論上は純資産部分は売手法人の残余財産から工面することはできますが、修正後純利益部分は買手が別途準備する必要があります。
今回はその「修正後純利益の1~2年分(のれん)」に着目してご説明させていただきます。
もちろん医療法人のM&Aといえども、売手と買手の双方の合意する金額で譲渡するのが原則です。
ただし、一定の目安を算定することから始まるのは株式会社と同じであり、その代表的な算定方法の1つとして「純資産時価+修正後純利益の1~2年分」として算定した金額を用います。
あくまで目安であることから他にも様々な方法があり、純資産時価や修正後純利益の金額の算定方法も様々ですが、純資産時価や修正後純利益の計算方法の一例として下記の方法が考えられます。
まず医療法人には「出資持分あり医療法人」と「出資持分なし医療法人」が存在します。
詳細な説明は割愛しますが、株式会社でいう株式(出資)という概念がある法人と、そもそも出資という概念がない法人とお考えいただければよいかと思われます。
このうち、「出資持分あり医療法人」のM&Aにおける譲渡スキームは、株式(出資持分)譲渡・入社退社方式・役員退職金による支払の3つの方法が考えられます。
これに対し「出資持分なし医療法人」の譲渡スキームは、そもそも出資持分自体がないので出資の譲渡等の方法は選択することが出来ず、基本的に役員退職金の支払いのみのスキームとなります。
例えば下記のような医療法人をM&Aで譲渡する場合について検討してみたいと思います。
この医療法人を時価純資産2億円+のれん代2億円=4億円の対価で譲渡する場合、この医療法人は出資持分あり医療法人であることから、上記でご説明した通り譲渡スキームとして3つの方法を選択することが出来ます。
ただし、実際は買手の出費をできるだけ抑えたいことと、承継後に繰越欠損金を利用して法人税の納税を抑えることもできることから、少なくとも時価純資産部分の対価については役員退職金の支払いの方法がまず優先されることが多いと考えられます。
この点、この時価純資産2億円部分は医療法人の純資産(現預金、医業未収金が大半を占める)から準備することが可能であると考えられます。
しかしながら、のれん代2億円部分は買手が別途自分で準備する必要があります。
役員退職金の支払いの方法の場合は医療法人で資金調達、株式(出資持分)譲渡の場合は買手自身で資金調達が必要となります。
M&A後の事業計画を適切に作成して医療法人で借入が可能であればそれを使ってのれん代部分に相当する退職金を支払うことは可能です。
しかしながら損益が非常に好調なためのれん代が高額になってしまうような優良クリニックの場合、買手個人ではもちろん医療法人でも債務超過が多額となるため借入が出来ないこともあります。
この様な超優良クリニックの場合、勤務医さんが独立開業で買手となるケースばかりではなく、のれん代を準備することが出来る大手医療法人や上場会社、株式会社等が購入するケースも多いと考えられます。
大手医療法人が上記のような優良クリニックの医療法人を買収して吸収合併する場合、注意が必要です。
買手医療法人が出資持分なし医療法人に移行している場合で、売手医療法人が出資持分あり医療法人の場合、買手が売手を吸収合併すると、買手医療法人に売手医療法人の出資持分評価額に対するみなし贈与税が課税される場合があります。
また、認定を受けた売手医療法人を譲り受けた場合、買手医療法人で6年間認定の要件を満たし続ける必要があります。
買手が株式会社等である場合、その買手がどこでキャッシュポイントを作るかですが、コンサル料・DX化のイーラーニング・不動産を株式会社に移して賃料収入を得る、人材派遣等がありうる様です。
一部の方法については厚生労働省の助成金の対象にもなるようです。
なお、M&Aの後に医療法人が経常的に赤字、株式会社が経常的に黒字になるのであれば、グループ通算制度で損益を相殺して法人税の納税を抑えることも考えられます。
ただし、買手が株式会社ではなく資金調達の関係からSPCを設立するスキームの場合、グループ通算制度は適用出来ません。
本件にかかわらず医療法人の事業承継についてのご相談がございましたら、下記の弊所ホームページのお問い合わせフォームからご連絡いただけますと幸いです。