医療法人を譲渡する方法として、「退職金による精算」、「出資持分の譲渡」、「社員の退社による出資持分の払戻」の3つの方法があります。
このうち、持分なし医療法人はもちろん、持分あり医療法人でも「退職金による精算」の方法が多く選択されます。
その理由や留意点について解説していきます。
あらゆる医療法人はすべて「持分なし」か「持分あり」かに分類されます。 それぞれの類型における理由を見ていきます。
平成19年4月1日以降設立認可申請された医療法人はすべて持分なし医療法人となります。
また、それより前に設立された医療法人であっても、持分なし医療法人への定款変更を行ったり、財団等として設立された医療法人は持分なし医療法人です。
いずれにしても、こちらの類型の医療法人はそもそも「退職金による精算」の方法しか選択することが出来ません。
「出資持分の譲渡」「社員の退社による出資持分の払戻」はいずれも出資持分を起因とするものであるところ、その名の通り「持分なし医療法人」は持分がないためです。
逆に言うと、もともと持分なし医療法人である場合、もしくは移行により持分なし医療法人となった場合であっても「退職金による精算」というスキームを選択することによりM&Aにより第三者承継を行うことは可能です。
本来であれば「退職金による精算」、「出資持分の譲渡」、「社員の退社による出資持分の払戻」の3つの方法のいずれを選択することも可能ですし、実際出資持分の譲渡スキームを利用する事例もあります。
ただし、下記の理由により退職金による精算スキームが多く用いられます。
税務上の支給限度額を超える退職金の額は法人税の計算上損金不算入となります。
法人税の計算上の支給限度額の計算方法の代表的なものは「功績倍率法」であり、最終報酬月額×勤続年数×功績倍率として計算されます。
税務のことだけ考えると、逆に支給限度額を超えて支給しても超過額が損金にならないだけで、支給そのものが否定されるわけではありません。
なお、実際の最終報酬月額が低すぎる場合や、帳尻合わせで退職時だけ高額にしている場合は、適正な金額に引き直して計算する必要があります。
また功績倍率については理事長は3くらい、理事は2くらいという通説がありますが、これらを超える功績倍率とするのであればその根拠を準備しておく必要があると考えられます。
なお、退職金の支給を受ける側では、上記の法人の損金にならなかった部分も含めて退職所得として課税されます。
退職所得は(支給額ー退職所得控除額)×1/2として計算され、分離課税であることから、他の所得に対して有利な取扱いとなります。
ただし、勤続年数が5年以下の役員については退職所得の計算上2分の1は乗じないこととされています。
また、M&Aにおける仲介会社やFAに対する手数料は、出資持分の譲渡の場合は譲渡所得の計算上控除することが出来ますが、退職所得の計算上は控除することができません。
税務上の限度額と実態的な限度額が混同されて議論されていることがよくあります。
例えば顧問税理士から功績倍率法による限度額が退職金の支給限度額とご案内され、それ以上の退職金を支給できないと勘違いされている方がいらっしゃいますが、そもそもこれはあくまで法人税を計算する際の損金算入限度額の計算方法の1つであり、必ずしもその金額までしか支給できないというものではありません。
むしろM&Aにおいては、「医療法人の時価純資産+のれん(例:修正後当期純利益の1~2年分)」として計算されることが多く、実際の金額は功績倍率法による限度額と乖離するケースがほとんどです。
ただし、役員退職金があまりに高額すぎる場合は医療法上の配当禁止規定(医療法54条)に抵触する可能性があります。
いくらまでであれば問題ないという明確な規定はありませんが、例えば認定医療法人化の申請の際には役員退職金の支給限度額を規定した役員退職慰労金規程を添付して提出します。
M&Aにおいても、役員退職慰労金規程を完備することはもちろんのこと、その規程に基づく支給額を理事会や社員総会決議で決議することは必須となります。
本件にかかわらず医療法人のM&Aや認定医療法人化、その他の事業承継についてのご相談がございましたら、下記の弊所ホームページのお問い合わせフォームからご連絡いただけますと幸いです。