【認定医療法人】親族内承継と認定医療法人制度活用の事例 - 1

今回から何回かに分けて、医療法人の親族内承継と認定医療法人制度活用の事例をご紹介させていただきます。

事例1 - クリニック(一人医師医療法人)をご子息に承継

ご子息がクリニックを承継された事例です。

  1. 概要
    奥様と二人三脚で運営されていたクリニックを平成5年に持分あり社団医療法人として医療法人成りされ、30年間運営されておられました。
    ご子息は医学部に進学され、大学病院や系列病院で勤務したのちに、当院で副院長として勤務されることとなりました。
    近い将来ご子息に医療法人を引き継ぎ、理事長職や院長職を譲ることとなりました。
    医療法人の仕組みについてご自身で情報収集をされて、社員と出資者の違いや出資持分の把握されておられました。その過程で、認定医療法人制度が創設されたこともご存じでした。
  2. 事業承継における問題点
    1. 認定医療法人制度を本質的に説明してくれる専門家がおらず、本当に意味のある制度なのか意味のない制度なのかを知るすべがなかった。
    2. ご子息は勤務医として最新の医療技術を習得されてから当院に戻ってこられたため、患者数が急増し、クリニックの売上も急増した。出資持分の大半を現理事長(お父様)が所有されており、ご子息がクリニックで成果を上げれば上げるほど出資持分の相続税評価額は上昇し、出資持分の引継に係る納税額が上昇する状態となっていた。
  3. 対応方法
    1. 上記2(1)については、認定医療法人制度のメリットデメリットをご説明し、正しくご理解していただいたうえで、ご判断していただくようにご説明した。
      1. 主なメリット:承継時の相続税贈与税の回避、経営リスクの回避
      2. 主なデメリット:持分(払戻請求権、M&Aの手段)の消滅
    2. 上記2(2)については、現状の医療法人の株価に基づく相続税贈与税額を試算するとともに、直近の法人所得が今後も継続して計上された場合の10年後の相続税贈与税額を試算し、できるだけ早めに持分承継対策をすべきことを数値化してご説明した。
  4. 解決方法
    持分を放棄することによるデメリット(払戻請求権の喪失、M&Aの手段の減少)よりも将来の相続税を抑える方が喫緊の課題であるとご判断され、認定医療法人制度を活用されたうえで、持分なし医療法人へ移行され、出資持分の納税額と経営リスクの問題を解決されました。

事例2 - 認定医療法人制度を活用できなかった事例

下記のような事例がありました。

  1. 自由診療の割合が多い医療法人
    例えば美容に力を入れていたり、自費の歯科診療に力を入れている医療法人で、認定医療法人制度を活用できませんでした。
    認定医療法人制度の要件の1つとして保険診療割合が80%超である必要があるため、適用は難しく、別の方法で承継対策を行う必要があります。
    なお、不妊治療は先般の診療報酬改定で一部保険診療に組み入れられたことから、現在は要件を満たす可能性があります。
  2. 反対出資者がいる場合
    すでに相続対策として出資が分散してしまっており、出資者が10名いらっしゃる状態でした。そのなかには医療法人の経営に関与されていない方、理事長の経営方針に反対されている方、持分の払戻を希望される方などがいらっしゃる状況でした。
    経営リスクを避けるためには、出資が分散する前に持分なし医療法人に移行する方法が有効な手段の1つと考えられます。
  3. 将来分割する予定の場合
    ご子息が二人いらっしゃり、お二人とも医療法人の後継者候補として戻ってこられたケースで、将来医療法人を分割する予定の場合です。
    認定医療法人制度を適用した場合、持分なし移行から6年間は医療法人を分割できないため、認定医療法人制度を適用せずに持分なし医療法人へ移行し、分割することとなりました。
  4. 顧問税理士の反対
    出資の暦年贈与や退職金支払いによる対策を顧問税理士が対策されており、認定医療法人制度を適用する必要はないと顧問税理士からアドバイスされたという事例です。実はこの事例が最も多い事例となります。
    逆に認定医療法人制度を積極的に勉強されている税理士先生の顧問先医療法人は認定医療法人制度を積極的に活用されていたり、顧問税理士から医療法人特化の税理士をご紹介される事例も多くあります。
    本当に現状の対策で問題ないのか、現状の対策方法と認定医療法人制度のメリットデメリットを本質的に比較して説明してもらって理解したうえでのご判断なのか、特に出資者に相続が起こった際に認定医療法人制度の説明をきちんとしてくれたのかを改めてご確認していただく必要があります。
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