将来の医院の承継についての理事長(院長)のお考えとして、生涯現役やご自身の代で閉院というお考えの方や、先のことはわからないので明確には検討されていない方もいらっしゃる一方、「70歳で引退」とお考えの方もいらっしゃいます。
医療法人の理事長(院長)がご勇退される際の、医院の承継方法として下記の3つの選択肢が考えられます。
これらについてご説明させていただきます。
(医療法人ではありませんが)経済産業省「令和4年中小企業実態基本調査(令和3年度決算実績)速報」によりますと、中小企業の社長(個人事業主を含む)の事業承継の意向のうち、親族内承継が約4分の1、解散が約4分の1、約半分が未定となっております(※)。
※主な意向別構成:「今はまだ事業承継について考えていない」(41.3%)、「親族内承継を考えている」(25.6%)、「現在の事業を継続するつもりはない」(24.0%)⇒主な年齢構成:70歳代(27.0%)、60歳代(26.4%)、50歳代(22.7%)
医療法人の場合は、理事長や院長が原則として医師又は歯科医師である必要があります。
親族に医師または歯科医師がいらっしゃる場合でも、その方が生涯勤務医としての道を選ばれる場合やご自身で別途開業される場合も多くあります。
専門診療科が同じであるかどうかや、後継者としてやりたい診療内容や患者層がマッチしているかどうかの問題もあります。
理事長としてもご子息の将来を束縛したくないので、ご子息の意思に任せたいと思われる方は多いと思われます。
貴院の承継を親族内で進めることが難しい場合は、ご自身の代で閉院するか、第三者に承継するかをご検討されることになります。
いずれにされるかの検討材料は様々ありますが、本稿ではM&Aの際の株価評価の観点からご説明させていただきます。
M&Aの際の株価の評価方法、つまり法人の譲渡金額の算定方法はいくつかありますが、スモールM&Aでは「年売法(年倍法)」で評価するのが一般的です。これは、時価純資産+営業権の金額により株価評価する方法です。
「時価純資産」の金額は、法人の決算書の貸借対照表(BS)をもとに計算します。
「営業権」の金額は、法人の決算書の損益計算書(PL)をもとに計算します。
BSとPLのそれぞれの観点から、解散と第三者承継を比較させていただきます。
まず時価純資産とは、法人の資産と負債をそれぞれ時価に評価しなおした後の差額を言います。
解散か第三者承継かの選択においては、BSの観点からはいずれもこの時価純資産額を回収するという点では同じになります。
異なるのは、(1)患者・従業員の引継、地域医療の維持(2)換金可能性(3)納税額という3点になります。
まず営業権とは、おおむね直近の修正後当期純利益(法人税等控除後の最終利益)の1~2倍とされています。
解散の場合は上記のBSアプローチからの時価純資産額のみの回収になることに対し、第三者承継の場合は買い手からこの営業権の回収も可能となることから、「第三者承継」のほうが有利であるといえます。
ただし、この営業権がマイナス(修正後当期純利益がマイナス)の場合は、負の営業権としてマイナス評価することになりますので、逆に「解散」のほうが有利となります。
現状黒字である法人の場合は、黒字の間にできるだけ早めに第三者承継の準備が必要であるといえます。
現状赤字の法人の場合は、収益改善や費用の見直しが必要となります。
以上から、解散より第三者承継のほうが金額的にも内容的にも有利である面が多いといえます。
ご勇退をお考えで親族内承継の可能性が低い場合は、利益が出ているうちにできるだけ早く第三者承継の対策をご検討されるべきであるといえます。