【認定医療法人】相続財産に医療法人の出資持分がある場合の相続税額の削減

税負担軽減額の比較

例えば先代理事長から医療法人の出資持分を相続した場合、結論としては出資持分の評価額の多寡に関係なく、認定医療法人制度を活用することが最も相続税負担の軽減になると考えられます。

持分評価額があまり高くない場合

この場合でも、例えば下記のケースでは最大160万円の税負担軽減になります。

医療法人の持分の相続税評価額がそこまで高額ではないため、一般的には「退職金を支給」して持分を親族内後継者に引き継ぐ方法をとることが多いと思われるケースについて、認定医療法人制度活用の有効性を検討してみます。

例えば、被相続人の財産が医療法人の持分のみ(評価額5千万円(1株当たり純資産価額方式により評価と仮定))、法定相続人が後継者であるご子息1名であることのみを条件とした場合について、一般的によく使われる手法である「死亡退職金を支給して株価を引き下げる」方法と比較してみます。

  1. 死亡退職金を5千万円支給する場合:税額90万円
    1. 相続財産の評価額:出資持分0円(=5千万円ー退職金支給額5千万円)、みなし相続財産4,500万円(=退職金支給額5千万円ー非課税額500万円)
    2. 課税遺産額:4,500万円ー基礎控除3,600万円(=3,000万円+600万円×1人)=900万円
    3. 相続税額:90万円=900万円×10%
  2. そのまま持分を相続する場合:税額160万円
    1. 相続財産の評価額:出資持分5千万円
    2. 課税遺産額:5千万円ー基礎控除3,600万円(=3,000万円+600万円×1人)=1,400万円
    3. 相続税額:160万円=1,400万円×15%ー50万円
  3. 認定を受けて持分放棄した場合:税額0円
    1. 本来の相続税額:160万円
    2. 認定を受けることによる納税猶予・免除額:160万円
    3. 相続税額:(1)ー(2)=0円

論点をわかりやすくするため極端な例で説明させていただいておりますが、認定を受ける方が税負担の軽減になることがわかります。

持分評価額が高額な場合

この場合、下記の例では最大1億9千万円の税負担軽減になります。

医療法人の持分の相続税評価額が高額で親族内承継による税負担額がかなり大きくなるケースについて、認定医療法人制度活用の有効性を検討してみます。

被相続人の財産が医療法人の持分のみ(評価額5億円(1株当たり純資産価額方式により評価))、法定相続人が後継者であるご子息1名であることのみを条件とした場合について、先ほどと同様に「死亡退職金を支給して株価を引き下げる」方法と比較してみます。

  1. 死亡退職金を5億円支給する場合:税額1億8,750万円
    1. 相続財産の評価額:出資持分0円(=5億円ー退職金支給額5億円)、みなし相続財産4億9,500万円(=退職金支給額5億円ー非課税額500万円)
    2. 課税遺産額:4億9,500万円ー基礎控除3,600万円(=3,000万円+600万円×1人)=4億5,900万円
    3. 相続税額:1億8,750万円=4億5,900万円×50%ー4,200万円
  2. そのまま持分を相続する場合:税額1億9千万円
    1. 相続財産の評価額:出資持分5億円
    2. 課税遺産額:5億円ー基礎控除3,600万円(=3,000万円+600万円×1人)=4億6,400万円
    3. 相続税額:1億9千万円=4億6,400万円×50%ー4,200万円
  3. 認定を受けて持分放棄した場合:0円
    1. 本来の相続税額:1億9千万円
    2. 認定を受けることによる納税猶予・免除額:1億9千万円
    3. 相続税額:(1)ー(2)=0円

こちらも論点をわかりやすくするため極端な例で説明させていただいておりますが、同じく認定を受ける方が税負担の軽減になります。

出資者に相続が開始した場合でも認定を受けることは可能です

出資者に相続が開始した場合でも認定を受けることは可能です。

「相続税の申告期限まで」に厚生労働大臣の認定を受けることにより、その被相続人の持分について相続税の納税猶予を受けることが出来ます。移行計画の移行期限までに持分のすべてを放棄した場合は猶予税額が免除になります。

相続財産に医療法人の持分が含まれている場合は、金額の多寡にかかわらず相続税の申告を依頼される税理士にご相談していただき、もし認定の申請をされるのであれば期限に間に合うようにご注意ください。

その他の注意点

  1. 認定要件
    相続の場合も認定の要件を満たさない場合は認定を受けることはできません。 特に被相続人の持分についての相続税の納税猶予を受けるための認定期限は10か月以内と直近に迫っていますので、直前の決算で遊休財産要件を満たしているか(相続開始と相続税の申告期限までに法人の決算があるかないか)等、対策も準備も急ぐ必要があります。
  2. 2次相続以降の税負担
    上記では1次相続の際のみの相続税の負担のみの比較を行っていますが、2次相続以降の持分に対する相続税負担もなくなり、医療法人へのみなし贈与税も非課税となります。
  3. 事前の認定のほうが有利
    上記の設例では医療法人の持分のみが相続財産と想定していますが、ほかに相続財産がある場合は相続開始後に認定を受けるよりも、事前に認定を受けて持分放棄しておいた方が税負担は軽減されます。
  4. 認定を受けずに放棄する方法もある
    自由診療割合が多い場合や、遊休財産対策が間に合わず相続税の申告期限までに認定を受けることが出来ない場合は、死亡退職金を支給した後に認定を受けずに持分なし医療法人に移行することにより、今後の親族内承継時の持分への課税を回避することが出来ます。株価が毎期上昇している医療法人についても有効です。
  5. 税額以外の検討も必要
    今回のコラムでは税負担のみに焦点を当てていますが、その他の事項も十分にご検討いただいたうえで、認定を受けるかどうかをご判断いただく必要があります。
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