【認定医療法人】退職金で株価引下により事業承継することの合理性

退職金支給による事業承継

医療法人に限らず、株式会社やその他の多くの法人で、前経営者のご勇退時に、それまでの功労に報いる形で役員退職慰労金を支給するものと思われます。
その際に、評価額が下がった出資を親族に承継して、納税額を抑えて事業承継を行う方法を検討されることも多くあります。

例えば純資産(=法人の総資産ー総負債)が1億円の法人の場合、そのまま株式や出資を後継者に譲り渡すと、約半分の5,000万円近くの税金が贈与税や相続税として課税されますが、役員退職慰労金として理事長に1億円を支給した後に株式や出資を贈与すれば純資産は0円となりますので、事業承継自体の税金は課税されないこととなります。
※純資産≒相続税評価額と仮定

一見合理的な承継の方法であると思われますが、以下の3つの点に留意する必要があります。

退職金支給による事業承継の問題点1:退職金に対する課税

株式や出資にはプラスマイナスゼロとして課税されないかもしれませんが、退職金には税金が課税されます。
まず、(退職金の金額ー退職所得控除額)÷2の金額を千円未満切り捨てた金額に、超過累進税率をかけた金額が所得税として課税されます。
勤続年数30年の理事長が1億円の退職金をもらわれた場合の税額は、およそ1,900万円、手取り額は8,100万円程度になります。
また、理事長がほかにも財産を多額に所有されていて、上記の手取り額をそのまま使わずにお亡くなりになられた場合は、約半分の相続税が課税されることとなります。
手取り額が残り続けると、2次相続以降も同様に相続税は課税され続けることなります。
つまり、無税で行われているように見える事業承継ですが、実は6割近い税金(+二次相続以降の課税)が課税されていることとなります。
※ただし、退職金が法人の損金となり、法人税は減額されることとなります。

退職金支給による事業承継の問題点2:資金繰りの悪化

純資産額に見合うキャッシュが法人内に留保されていて、その金額を支払っても資金繰りに困らない場合は問題ありませんが、支給額に見合うキャッシュが法人内に留保されていない場合は法人の資金繰りが悪化し、経営に支障が生じる可能性があります。
また、支給額の一部を未払いで残すことは、内容によっては税務調査で指摘される可能性があり、都道府県によっては役員借入は適当ではないとしているところもあるため、注意が必要です。

退職金支給による事業承継の問題点3:医療法への抵触

高額すぎる役員退職金は法人の損金にならない(法人税法34条②)ばかりではなく、医療法上の配当禁止規定(医療法54条)にも抵触する可能性があるため、注意が必要です。
功績倍率法(=最終給与月額×勤続年数×功績倍率)による算定を役員退職金規程で定めている法人も多いと思われますが、過大な支給額とならないようにする必要があります。

認定医療法人制度活用との比較

厚生労働大臣の認定を受けた場合、医療法人にみなし贈与税(相続税法66条④)が課税されることなく持分なし医療法人に移行することができ、無理な退職金支給による株価引下をすることなく、課税を受けずに出資を後継者に引き継ぐことが可能となります。
また、2次相続以降の承継課税や、承継による資金繰りの悪化も心配する必要がなくなります。 ただし、持分がなくなるため、将来に持分の払戻を受けることはできなくなります。

認定医療法人制度について

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認定を受けずに持分なしへの移行の方法

厚生労働省の認定を受けるためにはいくつかの要件を満たす必要がありますが、どうしても要件を満たすことが出来ない場合(例:自由診療割合が毎期20%以上の場合等)には、上記の退職金支給時に認定を受けずに持分なし医療法人に移行する方法もあります。
認定による持分なし医療法人への移行と同様、持分はなくなりますが、2次相続以降の承継に係る課税が生じなくなることがメリットです。
また、毎期順調に利益が出ている法人の場合、相続税の評価額も毎期上昇していくことになりますが、いったん持分なし医療法人に移行しておけば、株価上昇による課税額の上昇も心配なくなります。

持分の検討

上記でご説明した通り、承継時の課税の面からは、「①認定による持分なし移行<②認定なしの持分なし移行<③持分あり継続」であるといえます。
したがって、事業承継時の課税の問題と、持分そのものへの考え方により、①~③のいずれの方法をとるべきかをご検討される必要があると考えられます。

なお、以前の投稿で記載させていただきましたとおり、持分そのもののメリットデメリットは下記のとおりです。

<メリット>

<デメリット>

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