【医療法人M&A】クリニック譲渡の際の診療所不動産についての対応方法

診療所不動産の一般的な所有形態の状況

医療法人成りされているクリニックの診療所不動産については、医療法人自身が所有しているケースよりも、理事長やその親族もしくはMS法人等の関連法人が所有しているケースが一般的には多いものと思われます。

主な理由としては下記のとおりです。

  1. 不動産の移転にはイニシャルコストがかかるうえ、適正な譲渡価額を算出する必要がある。
    勤務医から独立開業される場合は、まずは個人診療所からスタートします。開業後数年経過して利益や課税状況、将来のクリニックの存続等を勘案して医療法人成りを検討することとなりますが、もともと個人診療所で運営している際に親族から診療所不動産を賃借していたり、ご自身で借入等を行って不動産を購入されています。医療法人成りの際にこの診療所不動産を医療法人に移す場合は、適正な譲渡価額を不動産鑑定士等に依頼して算出してもらう必要があり、また移転に係るイニシャルコスト(鑑定費用、不動産取得税、登録免許税等)も生じることとなります。
  2. 引退後の継続収入の確保のため
    医療法人を設立する段階では、将来医療法人を親族内承継するのか第三者承継するのか不明確なケースがほとんどですが、いずれの場合でも理事長の引退後に給与以外の継続収入として不動産賃貸料を確保しうるように、いったん医療法人成りの段階で個人に診療所不動産を残したままにしておきます。

対応方法1:不動産を買い手に譲渡

M&Aの際に、医療法人と一緒に診療所不動産も買い手に譲渡する場合は、もともとの診療所不動産の所有者が誰なのかに応じて対応方法を検討する必要があります。

もともと個人(理事長やその親族等)で所有している場合は、売り手から買い手(もしくは医療法人)に診療所不動産を譲渡することとなります。

MS法人で診療所不動産を所有している場合の対応方法としては、下記の3つの方法があります。

納税やイニシャルコストの面からは③が売り手にとっても買い手にとっても最も有利な方法と言えます。

ただし、MS法人で他に事業を行っていてその事業については譲渡しない場合や、これからMS法人で別の事業を開始したいと考えている場合は②の方法をとることになります。

  1. 診療所不動産をMS法人から買い手に譲渡してMS法人を解散する
  2. 診療所不動産をMS法人から買い手に譲渡して、MS法人で別の事業を行う
  3. MS法人の株式自体を買い手に譲渡する方法

対応方法2:診療所不動産を譲渡せずに賃貸

医療法人はM&Aで譲渡しても、診療所不動産は譲渡せずに賃貸する方法も考えられます。

上記でご説明したとおり、引退後の売り手の継続的な家賃収入を確保することが可能です。

また、MS法人で不動産を所有し続けて賃貸する場合は、MS法人の経営者を理事長のご子息とすることにより、理事長ではなくご子息に給与として継続収入を確保することも可能です。

以前、売り手の理事長にM&Aの譲渡スキームをご提案した際に「私は引退後に生活するための資金は十分に持っているからそんなにお金はいらない。それよりも子供たちにお金を残してあげられる方法を考えてほしい。」と言われたことがありますが、その方法の1つとして当てはまると考えられます。

なお、身内で診療所不動産を賃貸している場合と、M&Aの後に第三者間で賃貸する場合では、賃料の考え方やその他の取り決めも異なってくることから、買い手としては長期の賃貸借契約を改めてきちんと締結し、権利関係を明確にしてM&Aの後に診療所不動産の利用に支障が生じないようにする必要があります。

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