【医療法人M&A】出資の譲渡について留意すべきこと

医療法人の出資の特徴

医療法人の出資は、株式会社の株式と同じようなものとイメージしていただけるとわかりやすいと思います。 ただし、下記の点において、株式会社と異なります。

  1. 株式会社の場合は原則として株主が議決権も持っていますが、医療法人の場合は出資者が必ずしも法人の議決権を有するとは限りません。医療法人の議決権は社員が持つことになります。 結果的に社員=出資者の医療法人が多いため混同しがちですが、正確には社員と出資者は異なる地位であるため、社員ではない出資者の場合は医療法人の経営権を持っていないことになります。 また、医療法人の社員の議決権は、出資割合に関係なく、1人1議決権となります。
  2. 医療法の規定により、配当を受けることができません。
  3. 出資者=社員の場合、社員の退社により出資持分の払い戻しを受けることができます。
  4. 出資がない、いわゆる「出資持分なし医療法人」も存在します。

買い手が個人の場合

上記①のとおり、出資を譲り受けただけでは法人の経営権を取得することはできないため、別途社員となる必要があります。
※理事(理事長)へ就任する場合は別途手続きが必要です。

社員となるためには社員総会の承認が必要になります。社員名簿の変更も忘れずに行う必要があります。

なお、買い手の資金調達との関係や税務上のメリットの観点から、退職金による譲渡対価の清算を行った後に出資の譲渡を行ったり、出資の払い戻しにより社員と出資者を入れ替える方法をとることもあります。

その際に資金が不足する場合は、買い手が売り手の医療法人に貸し付けを行ったり、売り手の医療法人で金融機関から借り入れをします。

株式会社が出資を買い取る場合

株式会社が医療法人の出資を買い取ることは可能です。ただし、医療機関の非営利性の観点から、営利法人である株式会社が社員になることはできません(参考:東京弁護士会会長あて厚生省健康政策局指導課長回答)。結果的に、株式会社自体が医療法人の経営権を取得することはできません。

医療法人は配当ができず、また社員になることができないため退社による持分の払い戻しを受けることもできず、投下資本の回収はその出資を再び譲渡する場合に限られてしまうことから、通常はあまり採用されない方法となります。

医療法人が医療法人の出資を買い取る場合

明確な規定はありませんが、医療法人が有するべき資産との関係から、望ましくないと考えられます(医療法41条、医療法施行規則30条の34)。

なお、営利法人以外の法人社員が医療法人の持分を持つことは法人運営の安定性の観点から適当ではないとされています(医療法人運営管理指導要綱)。

出資持分なし医療法人のM&A

出資がそもそもないため、出資の譲渡もできません。また売り手側の社員の退社による持分の払い戻しもできません。したがって、退職金による譲渡対価の清算を行うこととなります。

医療法人のM&Aは、「対価の清算」と「経営権の移譲」のそれぞれについて手続きが必要となります。

対価の清算方法としては、出資の譲渡、持分の払い戻し、退職金による清算の方法がありますが、出資の譲渡と払い戻しは出資がない場合は採用できない方法です。

経営権を移譲するために、別途社員の交代と理事(理事長)の交代が必要になります。

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